濡木痴夢男 (Nureki Chimuo) 1930-2013

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Nureki Chimuo passed away in August, and I am pulling this interview from the archives. For the English version see one post down.

                                                                                                   Osada Steve

『濡木痴夢男-緊縛の真の魔力を持つ男』

長田スティーブ

写真界の巨匠荒木経惟が母親の腹から生まれた時、既にカメラを構えていたと述べるように、緊縛界の巨匠濡木痴夢男また、生まれた時にはその手に麻縄を持っていたのだと語る。

天才という人種が真性の早い時期からその才能に気づくのは余りに自然ではある。写真が荒木を、そして緊縛が濡木を選んだのである。

「裏窓」「サスペンスマガジン」「あぶらめんと」の編集長をつとめる傍ら、「奇譚クラブ」他三十数誌に小説を発表し、緊縛美研究会(通称:緊美研)を主宰。

現在に至るまでおよそ4,500人もの女性を縛ってきた濡木痴夢男は、誰もが認める緊縛の巨匠である。何故、女性たちは彼に縛られる事を渇望するのか?その秘密は?その疑問に対する答えを強く求め、長田スティーブは三和出版の協力を得、パートナーの浅葱アゲハと共に同社刊行の『マニア倶楽部』のグラビア撮影時に、その伝説の縄師にインタビューされて頂く事になったのだが・・・。

「センセイ、このビデオ、ワタシがはじめてみたビデオ、でス。ヌレキセンセイ、このビデオで、”キョウト”センセイの、やく、やってまス。」

スティーブが古びたビデオのカバーを濡木に見せ、辿々しい日本語でそう切り出すが、濡木にはいまいち伝わっていない様子である。

「?京都の先生の話?」

「ん、ちがいマス。キョウト、のセンセイじゃない。『キョウトーセンセイ』」

「あ、ああ!『教頭先生』ね(笑)。京都の先生じゃなくて。

そうね、このビデオが出た当時っていうのは、もっと好いビデオがいっぱい作られてたよね。これは80年代のアートビデオの作品。このビデオは実験的に作った一作目で、モデルに7000円しか払わなかったんだけど、この時の彼女それで良いって言ったんだよね。結局この教頭先生シリーズからは12タイトル出たの。・・・こういうのは今もう作られてないよね。」

スティーブとの会話の噛み合わない事も意に介さず、貴重な話を饒舌に語る濡木の姿に、この取材へのスティーブの期待は高まった。この世界で最も長く活動している濡木痴夢男。存在そのものが知識の宝庫とも言える彼の口から、一体どんな話を聞かせてもらえるのかと、ビデオカメラを握る指に自然に力が入る。

撮影の準備が整い、今回の撮影モデルが濡木に縛られるのを心待ちにしている様子が伺えた。肉付きが良く美しいモデルだったが、同じく縄師でもあるスティーブの事には全く興味がなさそうだった。

その事に彼は多少不服でもあった。・・・自分は濡木先生に比べ若すぎるのか?それとも自分が持つ緊縛の魔力に彼女は気づけないのか?恐らく両方だろう。・・・もしかしたら彼女は単純に医療フェチなのかも。撮影用にOLの格好をしている彼女は、今この瞬間、医師の白衣を纏った濡木に欲情しているだけに違いない。うん。別に彼女が自分の縄に興味が無いという訳じゃなさそうだ・・・、と、多少思い込みの強い所のあるこの『外人縄師』が勝手に納得していた時、モデルの腕は後ろ手に回された。

それが縄であるとか医者の気まぐれであるとか関係なく、その『仕草』が魔法のように彼女の白い肌を赤く染めた事には、そのお馬鹿な外人すら気がついた。

有能な医者というものは、その病気を『根底』から打ちのめす処置をせねばならない。そして今まさに求められている処置は医師・濡木による股縄のようだった。モデルは悶え、濡木の口から発せられる猥褻な言葉に反応し、尻をくねらせる。

「いやらしいねぇ。」

濡木は囁くと、パンティをずらし、形のよい臀部を露わにさせた。

パンプスを履きOLの様に装っていたモデルは、羞恥に顔を真っ赤に染め興奮し切っている。きっとこの恥ずべき責めを幾つもくぐり抜けて初めて、彼女は縄から解放される事が出来るのだろう。特筆すべきは、モデルを自身の世界へと引き込む、濡木の話術の巧みさだった。撮影と言う場に置いてもモデルは、濡木の囁きに翻弄され、追い込まれ、その縄に身を委ねざるをえないのである。

-縄と言葉責めか。・・・まさしく『いけない女の子』に相応しい治療だな。

そう胸の内で呟くスティーブの視線の先には、パートーナーの浅葱アゲハ。今回の取材のコーディネーターもつとめた彼女の今日の役割は、インタビューの通訳だった。

濡木医師による『治療』で、すっかりテンションが上がったOL嬢には、更に過酷な試練が待ち受けていた。撮影は中央に重厚な木の柱を据えた、和室のセットに移された。そのセットは勿論、吊りが出来るように組まれている。

それからなおも続く縄による責め、激しい胸への愛撫、数々の恥ずかしい言葉を浴びせられ、OL嬢はとうとう失神寸前、上昇の高みへと昇っていた。潤んだ唇から喜びの吐息を漏らし、頬には涙が伝う。

「緊縛っていうのはね、教えようと思って教えられるものじゃない訳ですよ。」

休憩に入り、スティーブのインタビューに快く応じた濡木の顔に、撮影の疲れは微塵も見られない。アゲハの通訳を介したスティーブの質問に、意気揚々と答えていく様は、不思議と見ているだけでも飽きる事が無い。

「そういった意味で、緊縛に師匠と弟子の関係など無い、と僕は思いますよ。僕も縛り方のビデオというのは出していますけども。どう真似しようと思ったって、緊縛というものは同じ形にはなりようがないんです。」

「緊縛で大事なのは、心でしょうか?」

「勿論ですよ。心が大事。でもね、心も大事だけど、技術がなくちゃいけませんよ。だっていくら心があったって、心だけじゃ縛れないでしょ(笑)。」

なるほど、と頷いてスティーブは質問を続けた。

「濡木先生の縛りというのは、今も進化されているのでしょうか?」

「進歩って言うならあなたね、もしここに指が15本ある女の子がいるとしたら、その子に合う縛りをしますよ。同じ縛りをしますよ。同じ縛り方でも、体重が軽い子と150kgある女の子じゃ全然変わるでしょ。その子その子によって、縛り方は毎回変わりますよ。」

「外国人の女性を縛った事はありますか?」

「ちょうどこの間ね、ラスベガスから来たって言う女の子を縛りましたよ。もう、物凄く大きいの、体が。キャロラインて名前でね、ただその子、僕が凄く驚いたのが、今の日本人女性よりも、羞恥心が凄くあるの。驚いたねー。日本で一番縄の上手な先生に縛ってもらったって、凄く喜んでくれてね。私の住んでるラスベガスにも縛りの好きな女の子がいるから、帰ったらその子たちに自慢するんだって大満足で帰っていったよ。」

濡木に縛って貰えるのならば、どんな外国人女性も我を忘れて子供のようになってしまうのかもしれない。

「濡木先生、とてもアバウトな質問ですが、SMについてどう思われますか?」

「SMについて、そうね、例えばSMマニア。本当にSMが好きなマニアの人たちはもうSM雑誌を読んでいないだろうね。SMの世界において、底辺は物凄く広くなったの。物凄く『浅く広く』ね。その代わり、本当のマニアは一握りになってしまった。そういう人たちはね、人前に出さないの。もっと大事に、自分だけのものにしたいんだよね。

SMショーとかさ、僕は絶対できないよ、SMわかんない人たちの前では絶対出来ない。例えば今日の撮影とかでもね、今この現場にいる三和のスタッフたちは皆わかってくれている。だから僕はできるんだよね。

そうそう、緊美研にもね、よく参加したいって言う新しい人たちがどんどん来てますけどね。一度フランス人の男の人が見せてくれって来たんだけど、全然こちらの事をわかろうとしないものだから。出てけーっておいだしちゃったんだよねえ。」

そういって濡木は魅力的に、屈託なく笑ってみせた。彼のSMに対する思いの強さが伺えるエピソードだが、スティーブが更に次の質問ををしようとしたその時、ああ、濡木の鋭い目は、通訳をしていた浅葱アゲハのある種特別な美しさに狙いを定め、彼女に濡木の縛りを体験してみないかと持ちかけたのだ。スティーブのパートナー、そして空中パフォーマーとして幾多のステージングをこなし、若くして既にその地位を確立している彼女だが、恋人であるスティーブ以外の人間に縄をかけられる事は、実に滅多に無い。その彼女に濡木痴夢男の縄がかけられるというのだ。

インタビューの合間の軽い縛りとはいえ、戸惑いと緊張の色が隠せないアゲハの細い腰に濡木が縄を巻き付けていく。後ろ手に回された手と、片手で掴めそうな儚い首をほんの数本の縄で拘束された彼女の表情が、ごく一部のの限られた人間にしか出す事の出来ない表情へとみるみる変化していくのを、スティーブはただ見つめる事しか出来なかった。今彼女は、死んだ犬の事を思って泣いているのか?心臓が痛くて泣いているのか?それともやはり、濡木の縄の魅力のもたらす魔法なのか・・・。とにかく、アゲハは今や本当の緊縛を経験してしまった。

「くそったれ。」スティーブは口の中で呟いた。「もう俺の縄でアゲハを満足させられないじゃないか。もっと勉強しなければ。如何に人を縛れるか、如何に人を魅惑できるかということを。」

初めてスティーブが濡木痴夢男を『教頭先生』のビデオで見た時、それはまるで濡木をに恋をしたようなものだった。まさか後年になって、実際に彼を目の当たりに出来るなど、思いもしなかった事なのだ。そして彼は濡木の魅力に打ちのめされた-ことさら、濡木の、相手を引き込む彼のあまりに強い魅力そのものに。

 今日、濡木の緊縛を見てスティーブが甚だしく実感した事。それは、緊縛は技術だけでも心だけでも成立する事はない、縄を施す縛り手の魅力がものをいう、という事だった。モデルを含め、撮影空間そのものを、彼の世界に変えてしまう濡木の強力な個性と人柄。これは真似しようと思って出来るものではない。

 どうしたら、彼のような魅力ある縛り手になれるのか?スティーブの渇望は膨れるばかりだった。

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